外来診療担当医表
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BHD専門外来
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資格・認定 | 日本外科学会専門医・指導医 日本気胸・嚢胞性肺疾患学会 理事 日本呼吸器外科学会専門医 評議員 |
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専門分野 | 呼吸器外科疾患(気胸、肺癌など)、単孔式胸腔鏡手術など |
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資格・認定 | 日本内視鏡外科学会評議員 日本呼吸器外科学会評議員 専門医 日本気胸学会理事 日本胸部外科学会認定医 正会員 日本外科学会認定医、指導医 日本消化器外科学会認定医 Society of American Gastrointestinal Endoscopic Surgeons 会員 |
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専門分野 | 呼吸器疾患(気胸、肺気腫、肺癌など)、胸腔鏡手術による治療 【モットー】 患者さんの病気だけでなく心のケアも含めた治療を心がけている 【趣味】 音楽(チェロ演奏)、読書、旅行 |
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資格・認定 | 日本外科学会専門医 |
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専門分野 | 呼吸器外科領域 |
センター長よりご挨拶
2025年4月より、センター長に就任いたしました坪島顕司です。先代センター長・栗原正利医師のもとで6年間にわたり指導を受け、気胸診療を深く学ぶ機会を得ました。当院赴任前には、別の施設で気胸センターの立ち上げと運営も経験しています。気胸の治療に長く携わり、単孔式胸腔鏡下手術に代表される患者さんの負担が少ない治療も追及してきました。これまでに築かれた伝統と治療技術を大切にしながら、今後も質の高い医療と丁寧な説明を心がけてまいります。
日本初の気胸専門センターとして
気胸研究センターは、1986年に日本で初めて「気胸」に特化した診療・研究施設として武野良仁医師によって開設されました。以来、若い男性に多くみられる原発性自然気胸をはじめ(図1参照)、どうしても肺からの空気漏れが止まらない難治性気胸や、症例数が少なく、他施設では経験が乏しいため治療方針が定まりにくい稀少性気胸でお悩みの患者さんが、全国各地から当センターを受診されています。これまでに累計1万症例を超える気胸患者さんの診療実績を積み重ねてきました。また、大学病院を含む多くの医療機関から信頼を得ており、患者さんをご紹介いただいています。
図1:原発性自然気胸に対する手術中の様子
肺の表面に嚢胞(ブラ)が発生し、これらが破裂すると気胸を発症します。年齢とともに増加、増大する場合もあります。
気胸に対する基本的な治療方針
気胸は基本的に肺の表面に様々な理由で穴があき、肺がしぼんでしまう病気です。多くの場合、胸の痛みや息苦しさ等を自覚して患者さんは来院されます。まずは胸部X線検査を行い、肺のしぼみ具合を3段階に分けます(図2参照)。気胸の詳しい状況を調べるためにCT検査を行うこともあります。
図2:胸部X線検査の所見


➀肺がしぼんでいます(水色矢印)。肺の先端が鎖骨(黄色矢印)よりも上に位置しており、しぼみ具合は軽度と評価されます。 ➁肺の先端が鎖骨よりも下に位置しており、しぼみ具合は中等度です。 ➂肺が完全にしぼみ、白く写っています。この場合、しぼみ具合は高度と判断され、入院が必要となります。
肺のしぼみ具合が軽度の方は安静のみで治癒することがあります。しかし中等度以上の場合は、胸腔ドレーンという管を胸の中に入れて空気を抜く処置を行います。もちろん処置の際には、局所麻酔という痛み止めの注射をしてから開始しますのでご安心ください。管を入れたまま帰宅できる携帯型の胸腔ドレーンもご用意していますが(図3参照)、体調やご年齢などを考慮し、入院していただくこともあります。肺のしぼみ具合が高度な場合は、基本的に入院をおすすめしています。
図3:携帯型胸腔ドレーン

➀管が細いので、痛みの軽減が期待できます。➁状況に応じて、この管を留置したまま帰宅することが可能です。
こうした初期対応とは別に、再発を繰り返す場合や空気漏れが続くなど、様々な理由で手術をご提案することがあります。原則として全身麻酔を行い寝ている間に胸腔鏡下手術(内視鏡を使った手術)を行います(図4①参照)。気胸の原因によって治療内容は異なりますが、代表的なものとして、肺の表面に発生した肺嚢胞(ブラ)を自動縫合器で切除して(図4②参照)、その周囲を補強しています。女性特有の月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸)では、横隔膜にも病変が出現することが多いので、これを切除して、縫合処置をします(図5参照)。できるだけ早く退院できるように努めており術後は1週間以内に退院できることが多いですが、術後の状態や気胸の原因によってそれ以上入院していただく場合もあります。
図4:胸腔鏡下手術の様子

➀モニター越しに胸の中を観察しながら、気胸の種類に応じた最適な治療を行います。 ➁自動縫合器(肺を切離すると同時にチタン製の小さなホチキスを打ち込む装置)で気胸の原因となっている肺嚢胞(ブラ)を切除しています。
図5:横隔膜病変に対する処置の様子

➀横隔膜の一部に穴があいていたり、血腫のような病変が出現します。➁病変を切除した後、内視鏡で確認しながら縫合処置を行ったところです。
患者さんのご年齢、体力等によっては行える治療が限られることがあります。その場合でも手術に代わる治療として、当センターで考案した胸腔造影をいう方法を使って空気漏れの位置を特定し、フィブリン糊(ヒトの血液から作られる接着剤)を滴下する治療や胸膜癒着療法(胸腔ドレーンから薬を胸腔内に注入する治療)、気管支充填術など他施設であまり行っていない様々な治療も行っています(図6,7参照)。
図6:胸腔造影下フィブリン糊閉鎖法(胸腔造影を使った空気漏れを止める治療)の様子

➀患者さんに透視台へ移動してもらい、胸腔造影を行いモニターで空気漏れの位置を確認します。

➁体外からカテーテルを操作し、空気漏れの部分にフィブリン糊を滴下します。


➂透視画面上で、空気漏れの位置(白色矢印)にフィブリン糊(黄色矢印)を滴下し、空気漏れが停止した様子です。
図7:気管支充填術を行っている様子
全身麻酔で眠った状態で、口から細い内視鏡(気管支鏡)を挿入し、肺の中の空気の通り道(気管支)を通って、空気漏れの原因となっている部分にたどり着きます。そこに直径5~7㎜のシリコン製のプラグをコルク栓のように挿入し、空気漏れを止めます。胸腔鏡下手術では肺の表面から治療しますが、この治療は肺の内側から空気漏れを止めるのが特徴です。
診療している主な疾患
細身の若い男性によくみられる原発性自然気胸から、高齢者の肺気腫(慢性閉塞性肺疾患)や間質性肺疾患に伴う難治性気胸、女性にみられる月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸)、Birt-Hogg-Dubé症候群(BHD症候群)、リンパ脈管筋腫症(LAM)等(図8参照)、幅広い疾患の診療を行っています。各疾患の詳しい情報については、私が所属する気胸スタディグループのホームページにて各専門家が詳しく解説していますので、ぜひご参照ください。
図8:リンパ脈管筋腫症で発症した自然気胸に対する手術中の様子
肺の表面に無数の嚢胞(ブラ)が認められます。これらは、いずれも破裂すると気胸の原因になりえます。
当センターが大切にする3つの柱
➀より低侵襲な治療を できる限り身体への負担の少ない治療を目指しています。原発性自然気胸に対しては、一般的な3ポート胸腔鏡下手術(3つの小さな傷で行う内視鏡手術)のほか、私が考案した胸壁滑車法による単孔式胸腔鏡下手術を積極的に行っています(図9参照)。1つの小さな傷で手術を行いますが、その大きさは最小13mm程度と世界的に見ても非常に小さい傷であり、当院の強みのひとつです。術後再発の予防方法(下記参照)は3ポート胸腔鏡下手術の時と同じであり、再発率や安全性も同等であることも確認しています。傷が目立ちにくいだけでなく、手術直後の痛みや慢性的な肋間神経痛の発生も抑えられる手法です。また、どの手術でも術後の傷が少しでもきれいに治るように、必要に応じて当院の形成外科と連携した対応も行っています。 また高齢の方や基礎疾患を持つ方では、当センターで通常行っている全身麻酔による手術が難しい場合があります。そうした方には、より負担の少ない局所麻酔や硬膜外麻酔を併用した覚醒下胸腔鏡下手術(患者さんが私達と会話ができるような起きた状態で行う内視鏡手術)を選択肢の1つとしてご提案しています。手術よりは治療効果が劣りますが、同じく全身麻酔下手術よりも負担が少ない胸腔造影下治療なども患者さんの体力に応じて行っています。
図9:胸壁滑車法による単孔式胸腔鏡下手術の様子


➀体外から見た手術の様子です。鉗子(肺を把持する道具)の代わりに、肺に縫い付けた糸(黄色矢印)を体外から引っ張る方法なので、使用する道具が少なくてすみ、非常に小さな傷で手術を行えます。 ➁胸壁につくった滑車(水色矢印)を介して、肺に縫い付けた糸を体外から引っ張ることで病変を自由に動かせます。 ➂傷の大きさは最小13㎜程度で、他施設と比べても極めて小さくすることが可能です。
➁再発予防へのこだわり 世間で考えられているよりも、気胸は再発しやすい病気です。再発のたびに学校や職場を休んだり、お子様のお世話や趣味の時間等がとれなくなり、生活の質が損なわれます。また、たびたび胸腔ドレナージを受けたり、複数回手術を受ける場合もあり体力、精神的にも大きな負担となります。 当センターでは、特に手術において低侵襲性だけではなく、再発予防にも重点を置いた治療方針をとっています。例えば、本邦の全国調査では、原発性自然気胸に対する手術例の約75%で再発予防処置が行われています。その多くでは1種類の吸収性シートが用いられていますが、当センターではさらに工夫を重ね、特徴の異なる2種類の吸収性シートを使った2重カバリング(dual covering)を考案し、再発予防と癒着軽減の両立を目指しています(図10参照)。またBHD症候群やLAMのように肺全体に嚢胞(ブラ)が出現してしまい、その全てが気胸の原因になりうる大変珍しい疾患もあります。経験豊富な医師でなければ途方に暮れてしまうような状況ですが、当院では先代センター長が開発した全胸膜カバリング術という方法で肺全体を丈夫にするような手術を行っています(図11参照)。手術中に高濃度ブドウ糖溶液を胸腔内に注入する胸膜コーティング法も取り入れており、再発率がさらに減少することが期待できます。 手術だけでなく、症例に応じて内科的治療も組み合わせ、最適な再発予防策を考えています。例えば、月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸)は手術を行っても再発しやすい気胸の代表ですが、婦人科と連携しホルモン療法(一般的には内服薬や定期的な皮下注射での治療)を行うことで、その後の再発が大きく減少することが期待できます。
図10:2重カバリング(dual covering)の様子

異なる特徴を持つ2種類の吸収性シートを順に重ねて、肺の表面を補強している様子です。
図11:全胸膜カバリング術の様子
肺の表面全体を、吸収性シートで丁寧に覆ってしまいます。
➂データに基づく診療と丁寧な説明 比較的治療対象が明確な肺悪性疾患の診療と異なり、空気漏れの原因や位置が様々な気胸は診療ガイドラインが作成しにくい病気です。また呼吸器外科専門医は全国に一定数存在するものの気胸治療の専門家の数は少なく治療方針が施設・医師ごとの経験で異なることも珍しくありません。だからこそ、当センターでは圧倒的な症例数に裏付けられた、これまでの治療成績をもとに、できる限り科学的な説明を行い、患者さんが納得できる診療を心がけています。 例えば、月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸)に関しては、日本全体でも1年間に約180~200件しか手術が行われていませんが、当院では年間約30件もの手術を行っています。LAMに伴う気胸についてはもっと珍しい疾患です。こちらは全国で行われている1年間の手術が約40件の中、当院では年間約10件の手術を行っています。こうした有病率の低い疾患は、特に一般的な医療機関では診療機会が限られており、治療経験やデータの蓄積が難しいのが現状です。当センターでは、こうした稀少な疾患についても多くの症例経験があり、その知見を生かして最適な治療方針をご提案しています。また私たちの経験してきたことや新しい治療方法は学会・論文発表を通じて検証を重ね、その成果を患者さんに還元しています(詳しくは研究業績をご覧ください)。 いまだに完全に再発を予防する方法は開発されていませんが、「どうすれば再発が最大限減少するか」「どの方法が適切か」ということを、経験に頼るだけではなく、できる限り客観的なデータをもとに説明し、患者さんと一緒に治療方針を考えていくことを大切にしています。
代表的な自然気胸への対応
疾患名 | 特徴 | 当センターでの代表的な治療(安静、胸腔ドレナージ以外) |
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原発性自然気胸 | 細身の若い男性に多い。肺嚢胞(ブラ)の破裂による気胸。 | 単孔式胸腔鏡下手術(胸壁滑車法)、3ポート胸腔鏡下手術、2重カバリング |
月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸) | 月経期に一致して発症しやすい。子宮内膜症の1つ。 | 胸腔鏡下手術(+ホルモン療法) |
BHD症候群 | 多発性肺嚢胞(ブラ)を伴う遺伝性疾患。 | 全胸膜カバリング術 |
LAM | ほとんどが女性に発症。多発性肺嚢胞が原因。 | 全胸膜カバリング術、他施設の内科専門医と連携 |
肺気腫(慢性閉塞性肺疾患) | 喫煙歴のある高齢者に多い。 | 胸腔造影下治療 胸腔鏡下手術 |
間質性肺疾患 | 肺の広い範囲で線維化を伴う疾患。 | 胸腔造影下治療 覚醒下胸腔鏡下手術 全身管理を含めたチーム医療 |
最後に
気胸は決して「肺に穴があく」だけの病気ではありません。その背景にはさまざまな病態があり、患者さんごとに必要な治療は異なります。当センターでは「気胸専門施設」としての経験をもとに、過去の実績に甘んじることなく、今後も質の高い診療と丁寧な説明を心がけ、あわせて新しい有効な治療の開発に努めています。 若い患者さんには、気胸から解放され再び日常生活に自信を持って戻っていただけることを、高齢の患者さんや基礎疾患をお持ちの方には、気胸という大きな負担を一つ取り除き、その後の療養や生活支援へ円滑につなげることを目標にしています。どのような状況にあっても、患者さんにとって最善となる道を一緒に考え、気胸専門施設として責任をもって治療に取り組んでまいります。 気胸と診断された方、再発を繰り返してお悩みの方は、どうかお気軽にご相談ください。 *本案内は、治療成績や新しい知見の蓄積に応じて今後も定期的に更新してまいります。