ヘルニアセンターヘルニアセンターについて

鼠径ヘルニアについて

下腹部で大腿の付け根部分を鼠径部(そけいぶ)といいますが、ここが膨らんでくる病気が鼠径ヘルニア(そけいへるにあ)です。 ソケイヘルニアには乳幼児~小児期のタイプと50~60才代にピークを持つ成人タイプがあります。小児タイプでは経過観察を行う場合もありますが、成人鼡径ヘルニアは診断が付き次第手術が原則です。玉川病院では長年の研究から以下のような診断と治療の方針で実績を積み、良好な成績を得ています。非常にポピュラーな病気で、日本では年間13~15万人が手術を受けているといわれています。

鼠径ヘルニアの診断

普通は立った時お腹に力を入れた時に鼠径部が膨らむことから簡単に診断はつきます。そのため視診、触診以外の診断法は必要とされていません。 しかし、当院では1988年よりソケイヘルニアを造影剤で写し出す診断法、ヘルニオグラフィーを行って来ました。ヘルニオグラフィーによって鼠経ヘルニアが明瞭に描出され、患者さんにも十分に理解してもらい、納得の上での治療を行い実績を上げて来ました。

再発ヘルニア

また最近では性能が格段に上がったCTを利用し、診断に応用しています。 ヘルニオグラフィーに迫る診断能を有しており、非侵襲的であることなどから、通常の複雑でない症例にはむしろ優先して実施しています。

鼠径ヘルニアの分類

ヘルニアのタイプは以下のように分類されます。

  1. 外鼠径ヘルニア(間接ヘルニア)
  2. 内鼠径ヘルニア(直接ヘルニア)
  3. 大腿ヘルニア
  4. 閉鎖孔ヘルニア

通常、治療方法とはあまり関係しないということで重要視されません。 しかし、当院ではヘルニオグラフィーによってこれらのヘルニアのタイプを厳密に確定し、さらに細かく分類することによって適切な治療法(手術術式)を選択、決定しています。

鼠径ヘルニアの手術

近年、鼠径ヘルニアの手術は人工補強材(メッシュ)を使用するようになって再発率が低くなり、ほとんどの医療機関がメッシュ法を行っています。(腹腔鏡手術もメッシュ法の一種です。) 玉川病院ではヘルニオグラフィーに基づく長年の研究、実績からメッシュの必要なタイプと必要でないタイプを区別し、タイプに応じたより適切な手術法を選択しています。

鼠径ヘルニアの治療方針

ソケイヘルニアのタイプによって適切な手術法を選択します。術式はヘルニオグラフィーによる術前の診断と、手術時の直接所見によって決定します。

内鼠径輪縫縮術

外ソケイヘルニア(間接ヘルニア)を対象とする人工物を使わない方法で、マーシー法(Marcy 法)ともいいます。ヘルニアの袋(ヘルニア嚢)を切除し、穴(ヘルニア門)を閉鎖します。 もっとも負担が少なく、術後Q.O.Lの高い方法です。小さいヘルニア、若い方のヘルニア、女性のヘルニアなどに多く選択します。 また現在では、この術式を腹腔鏡手術に応用し、よい発展型として行っています。

リヒテンシュタイン法(Lichtenstein 法)

ポリプロピレンという素材のメッシュを使う方法の中で最も代表的な術式です。リヒテンシュタイン法は世界中で最も多く実施されて、最大の実績を持つ方法です。メッシュを使用した術式の基本となっています。フラットなメッシュを使用する信頼性の高い術式です。玉川病院ヘルニアセンターでは多くの症例による検討と長年の研究から、このリヒテンシュタイン法を基本術式としています。また最近では人工素材の量を少なくしたソフトメッシュも開発され、よりQ.O.Lが高まりました。

腹腔鏡下修復術

傷跡が目立たない、術後の痛みが少ない、回復が早いなどのメリットがあります。腹腔鏡でヘルニアを内側から修復します。腹膜を剥がしヘルニアの出口(門)をメッシュで塞ぎます。腹部とくに骨盤腔の手術、前立腺手術を受けている場合など限られた症例以外は実施可能で、機器の改良などにより進歩し、広く普及し始めています。 玉川病院ヘルニアセンターでは以上の3つの方法から、症例に最も適した術式を選び実施します。

女性のヘルニア

女性の鼠径ヘルニアには際立った特徴があります。

  1. 男性に比較して1/4~1/5 と少ない
  2. 直接ヘルニア(内鼠径ヘルニア)が少ない
  3. 大腿ヘルニアが多い
  4. 閉鎖孔ヘルニアも多い

これを年代別で見てみますと「若い女性のヘルニア」は

  1. 殆どが間接ヘルニア(外鼠径ヘルニア)である
  2. 子どもと同様の手術で良い場合がほとんど。ヘルニア嚢の処理のみで、メッシュ補強を必要としない
  3. ヌック嚢腫(Nuck Cyst)と呼ばれる水腫形成も多い。鼠径部の腫瘤(しこり)として触れ、少し痛い。はっきりしている時と小さくなって明瞭でない時がある
  4. メッシュの使用によって術後の痛み(術後慢性疼痛)に悩む例がある

中高年の女性ヘルニアには

  1. 大腿ヘルニアを見過ごしてはならない
  2. メッシュを使用しても問題はない。(むしろメッシュを使用するほうがよい)
  3. 診断がつき難く、治療が遅れやすい閉鎖孔ヘルニアに注意が必要
  4. 大腿ヘルニアも閉鎖孔ヘルニアも嵌頓して腸閉塞を起こしやすい

女性ヘルニアに対する玉川病院ヘルニアセンターの方針

  1. 上記の特徴を十分に考慮した、個別に最も適切な方法を選択する
  2. 若い世代のヘルニアにはほとんどメッシュは使用しない
  3. 中高年以上では大腿ヘルニアなどの見過ごしを無くすため、ヘルニオグラフィーなど正確な術前診断に基づいて術式を決定する

玉川病院の手術実績

ヘルニオグラフィーによる術式選択を確定した1996年以降(全1119例)の成績は以下のとおりです。10年以上の追跡調査を進めつつ、成績の改善を図っています。

再発率:0.4%(5/1119 例)

内鼠径輪縫縮術0.2%(1/450 例)
メッシュ法メッシュプラグ法0.6%(2/318 例)
リヒテンシュタイン法0.4%(1/235 例)
PHS法1.6%(1/62 例)

難渋例

内鼠径輪縫縮術術後痛み0.2%(1例)
しこりの悩み0.2%(1例)
メッシュ法メッシュプラグ法0.6%(2/318 例)
リヒテンシュタイン法0.4%(1/235 例)
PHS法1.6%(1/62 例)

ヘルニオグラフィー

お腹の中(腹腔)に造影剤を入れヘルニアを写し出す方法です。ヘルニアが一目瞭然に描出されます。 ヘルニオグラフィーでは他に隠れたヘルニア、反対側のヘルニアや判りにくい再発ヘルニアなどがはっきりします。再発かどうかで悩んでいる方、また原因が判らない鼠径部や下腹部の痛みなどの方にも有効です。この検査によって鼠径ヘルニアのタイプを決め、術式を決定します。

Type I-1 (indirect, small)

Type I-1 (indirect, small) 小さな外そけいヘルニア

Type I-2 (indirect, medium)

Type I-2 (indirect, medium) 中程度の外そけいヘルニア

Type I-3 (indirect, large)

Type I-3 (indirect, large) 大きな外そけいヘルニア

Type II (direct)

Type II (direct) 内そけいヘルニア

入院、治療の実際

  1. 初診外来際
    初めて受診される方は電話(外科外来をご指定ください)、メールにてお問い合わせください。通常は月、水、木のamです。紹介状は出来るだけお持ち下さいますようお願いします。初診日に検査(CT)、入院計画などを済ませます。
  2. 入院、手術
    通常は手術前日入院、手術、術後数日入院の3~5日間入院です。
  3. 費用(自己負担3割の場合)
    初診時  CTなど諸検査を含め 10,000~13,000円 入院、手術費用 鼠径輪縫縮術 80,000円前後 Lichtenstein法 75,000円前後 腹腔鏡下手術 160,000円前後

ヘルニアセンター

玉川病院では一般医療活動に加えて特に研究や調査などを行い、臨床成績を上げ、斯界および社会的に認められた部署・科を研究センターとして認定し、支援・援助を行っています。長年鼠径ヘルニアの臨床と研究をおこなってきた当部門もヘルニアセンターとして一層の活動をおこなっていきます。玉川病院には他にリハビリセンター、気胸センター、股関節センター、腎透析センター、などがあり活躍しています。 鼠径ヘルニアは米国で年間約8O万件、日本では年問14~15万件の手術がなされているといわれる外科的疾患で最も多い病気です。従来は外科医の初期研修の対象として位置づけられるような簡単な疾患と捉えられていましたが、近年ではその診断 と治療に高い専門性を求められるようになっています。当センターは1988年より鼠径ヘルニアの客観的画像診断法であるヘルニオグラフィーによって研究と臨床実績を上げており、この間、外科分野の学会においては常にシンポジウム、ワ一クショップなどに取り上げられ斯界をリードしてきました。鼠径ヘルニアの治療はこの十数年間で従来の方法から人工補強材を使ったものへ、また腹腔鏡手術の開始など画期的な展開を見ました。当センターの活動はちょうどこの変革の時期と重なり、その発展に寄与してきたといえます。 2002年には日本ヘルニア研究会が発足し、設立当初から参画し、2008年4月には第6回の会を主催しました。(現在は日本ヘルニア学会となっています。) 玉川病院ヘルニアセンターの特徴は、

  1. 正確な術前診断(ヘルニオグラフィ一)による十分なインフォームドコンセント
  2. 患者さんの状態に合わせた治療法の決定
  3. 不必要な人工物使用を避ける厳密な術式選択
  4. 短期入院など二一ズに合わせた治療期問の設定

などであり、手術時間の短さ、手術合併症再発率の低さ、術後愁訴の低さなど高い評価を受けています。小児の日帰り手術から90歳を超えた超高齢者の短期入院手術まで年間200例以上を行っています。今後も高い専門性と厚い信頼性のあるセンターとして活動していく所存です。

玉川病院の鼠径ヘルニア治療

  1. CT、ヘルニオグラフィーを用いた診断と手術の選択
  2. 人工物は出来るだけ少なくまたは使用しない!
  3. 再発、苦痛のない確実な手術

などが特徴、モットーです。

日本ヘルニア学会

第6回

玉川病院ヘルニアセンターは長年の実績を評価され2008年4月11日~12日に日本ヘルニア研究会を開催しました。全国のヘルニア研究者、外科医が集合する会です。現在、日本ヘルニア学会となっています。 詳しくはこちらを参照ください。

第6回 日本ヘルニア研究会のお知らせ

第6回日本ヘルニア研究会の学術集会が平成20年4月11日(金)、12日(土)に開催されました。 詳しくはこちらを参照ください。

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