大腸がん
わが国では、年間4万2998人(平成20年人口動態統計月報年計)の方が大腸がんで死亡しています。癌死亡者数では女性ではトップで、男性では肺がん、胃がんについで第3位となっており、過去50年間におよそ10倍となっています。大腸がんは食生活の欧米化に伴い今後も増加が予想されます。大腸がんの症状にはお腹の痛み、下痢、便秘といった便通異常、便が細くなる、便に血液が混じる、しぶり腹、貧血などがあります 。こういった症状があるときは当院の消化器内科もしくは消化器外科にご相談下さい。
大腸がんの診断
- 注腸検査(バリウム検査)
- 下部消化管内視鏡検査(大腸カメラ)
- 腹部超音波検査(肝転移のチェックおよび膀胱浸潤が疑われるときに行います)
- 腹部骨盤CT検査(がんの深さを評価し、リンパ節転移、肝、肺などへの転移がないかを調べます)
矢印の領域に全周性狭窄を呈する大腸がんを認めます。
右下の盛り上がって見えるところががんです。約半周性の進行癌です。
S状結腸に全周性の壁肥厚像があります。矢印の部分にがんがあります。術前に上記の精密検査を行って治療方針を決定します。
大腸がんの治療
内視鏡的治療≪内視鏡的粘膜切除(EMR)≫
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適応:深達度がM(図4参照)あるいはSM軽度浸潤癌で最大径2cm未満と診断された症例(がんが粘膜の浅いところでとどまっているときは内視鏡でとりきれます)
- 粘膜下層に生理的食塩水を打ち込んで病巣を半上させた後、がんとその周囲の正常大腸粘膜にルーブ業のワイヤー(スネア)をひっかけて電気で焼き切る治療法です。当日タ方から経口摂取が可能で、当院では1-2 泊の短期入院で内視鏡治療を行っています。退院後も治療前と比ぺて QOL(生活の質)が低下することはありません。手術に比ぺると侵襲が小さな治療法ですが、主な合併症として出血、穿孔(大腸壁に穴があく)があり、発生頻度はそれぞれ約0.4%、0.7%です。
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診療実績
平成19年 下部消化管内祝鏡検査症例数 1268例 大腸ポリーブおよび大腸がんに対する内視鏡治療 450例 平成20年 下部消化管内祝読検査症例数 1375例 大腸ポリーブおよび大腸がんに対する内視鏡治療 488例 - 担当医師 消化器内科 部長 安田正俊
手術
適応
- 病期0、I、II、III(図5参照)(粘膜から漿膜にまで浸潤したがんで遠隔転移、腹膜播種がないもの)
- 病期 Ⅳ(遠隔転移もしくは腹膜播種があるもの)のうち遠隔転移巣(肝、肺)および原発巣が切除可能な場合(遠隔転移巣が切除不可能でも原発巣から大出血および穿孔が生じている場合は原発巣のみ切除します)
手術方法の選択肢
当院では腹腔鏡手術を積極的に取り入れて治療しております。
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腹腔鏡下手術
局所が筋層までの浸潤であれば腹腔鏡手術の適応とします。腹部に5mm?10mmの切開を5箇所おき、お腹の中をカメラで観察しながら鉗子を用いて手術を行います。術後の痛みも軽度であり、侵襲も少ないために回復も早く早期の退院も可能です。
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開腹手術
以下の場合は開腹手術とします。
- 癌が大腸/直腸全層に浸潤している可能性がある
- 癌が大きい
- 癌が近接臓器に浸潤
- 癌に対して開腹手術歴がある
- 癌により腸閉塞状態となっている
- 全身状態や術前合併症も考慮して最終的に手術方法を決定します。
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診療実績(平成19-20年)
- 結腸癌症例数 63例
- 直腸癌症例数 28例
化学療法
適応
転移があって手術ができない大腸がんの患者さんや手術後に再発した大腸がんの患者さんの治療には、抗がん剤を使用します。複数の臨床試験で延命効果が証明されたいわゆる標準的治療を実施しています。大腸がんに対して使用している主な抗がん剤を以下に示します。
使用薬剤
- エルプラット(オキサリプラチン):点滴薬で外来投与できます。
- カンプト(CPT-11):点滴薬です。外来で投与できます。
- 5-FU:点滴薬です。
- レボホリナート(LV):点滴薬です。5-FUの作用を増強します。
- UFT:抗がん剤の飲み薬です。ロイコボリンという飲み薬と併用します。
- ティーエスワン(S-1):抗がん剤の飲み薬です。
以下のような組み合わせで使用し、以前より良好な効果を得ています。
- FOLFOX療法:エルプラット・5-FU・レボホリナート
- FOLFIRI療法:カンプト・5-FU・レボホリナート
患者さんの状態や病状の進み具合などを考慮しながら、他の組み合わせや単剤で治療を行っています。
分子標的治療
- アバスチン(ベバシズマブ)
「血管新生阻害剤」と呼ばれる新しいタイプのお薬です。抗がん剤と一緒に使うことで効果を発揮します。抗がん剤とは異なる特徴的な副作用(消化管穿孔、血栓塞栓症など)があらわれることがあります。FOLFOX療法、FOLFIRI療法と併用して用います。
- アービタックス(セツキシマブ)
上皮成長因子受容体(EGFR)阻害剤」と呼ばれる新しいタイプのお薬です。アレルギーや皮膚症状(炎症、乾燥など)がおもな副作用です。
≪参考文献≫
1 .大腸癌研究会編: 大腸癌取扱い規約. 第7版補訂版. 金原出版, 東京, 2009
2 .大腸癌研究会編: 大腸癌治療ガイドライン. 医師用 2009年版. 金原出版, 東京, 2009
トピックス
上記の疾患に関する診断、治療を行っております。なにか気になる症状がありましたらお気軽にご相談ください。