気胸研究センター論文業績

気胸研究センター論文業績

Tsuboshima K, Kurihara M, Ohashi K.
New Trends in Uniportal Video-Assisted Thoracoscopic Surgery for Primary Spontaneous Pneumothorax: A Narrative Review.
J Clin Med. 2025 Mar 9;14(6):1849. doi: 10.3390/jcm14061849. PMID: 40142656; PMCID: PMC11943283.

解説:原発性自然気胸は、若い男性に多い病気です。「胸腔鏡」という内視鏡を用いて3か所の小さな傷で行う手術が現在の主流ですが、最近では、1か所の小さな傷だけで行う「単孔式胸腔鏡手術」も行われるようになってきました。この新しい方法は、体への負担や術後の痛みをさらに減らすことが期待されています。本論文は、単孔式胸腔鏡下手術の工夫や最新の取り組みについてまとめたものです。

Igai H, Sawabata N, Obuchi T, Matsutani N, Tsuboshima K, Okamoto S, Hayashi A.
Current situation of management of spontaneous pneumothorax in Japan: A cross-sectional cohort study.
Respir Investig. 2024 May;62(3):328-333. doi: 10.1016/j.resinv.2024.02.006. Epub 2024 Feb 24. PMID: 38401246.

解説:日本気胸・嚢胞性肺疾患学会が行った全国調査(93施設が参加し、1784名の患者さんが対象)の結果をまとめた研究です。気胸は軽い病気と思われがちですが、特に肺の病気(間質性肺炎など)をもともと持っている方に起こった場合、入院中に亡くなるリスクが高いことが明らかになりました。このため、基礎疾患のある患者さんでは、より慎重な治療が大切であることが示されています。

Tsuboshima K, Kurihara M, Okumura G, Ohashi K, Takahashi K, Shiko Y, Ozawa Y, Seyama K.
Postoperative hormonal therapies reduce the recurrence of thoracic endometriosis-related pneumothorax.
Eur J Cardiothorac Surg. 2023 Oct 4;64(4):ezad331. doi: 10.1093/ejcts/ezad331. Erratum in: Eur J Cardiothorac Surg. 2023 Nov 1;64(5):ezad393. doi: 10.1093/ejcts/ezad393. PMID: 37773983.

解説:いわゆる月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸)について、248名を対象に行った世界最大規模の研究です。手術後にホルモン療法(ジエノゲストや低用量ピルの内服など)を行った場合、再発率は行わなかった場合に比べて約3分の1に抑えられることが明らかになりました。

Kishi M, Hayashi T, Mitani K, Tsuboshima K, Kurihara M, Hosoya M, Sekimoto Y, Okura MK, Mitsuishi Y, Okada Y, Kanno J, Yao T, Takahashi K, Seyama K.
Clinicopathological Impacts of Expression of Neuronal Markers in Lymphangioleiomyomatosis.
Am J Surg Pathol. 2023 Nov 1;47(11):1252-1260. doi: 10.1097/PAS.0000000000002113. Epub 2023 Aug 21. PMID: 37599567.

解説:リンパ脈管筋腫症は、肺にも発症する稀な病気で、神経の特徴をもつ細胞が関与している可能性があります。本研究では、40名の患者さんの肺組織を詳しく調べたところ、約40~60%の患者さんで神経に特有のたんぱく質(神経マーカー)が見つかりました。特に、病気の初期段階では神経マーカーがよく見られ、発症年齢が若いことや腎臓の腫瘍(腎血管筋脂肪腫)との関係も示されました。

Namba Y, Ebana H, Okamoto S, Kobayashi E, Kurihara M, Sekimoto Y, Tsuboshima K, Okura MK, Mitsuishi Y, Takahashi K, Seyama K.
Clinical and genetic features of 334 Asian patients with Birt-Hogg-Dubé syndrome (BHDS) who presented with pulmonary cysts with or without a history of pneumothorax, with special reference to BHDS-associated pneumothorax.
PLoS One. 2023 Jul 25;18(7):e0289175. doi: 10.1371/journal.pone.0289175. PMID: 37490463; PMCID: PMC10368292.

解説:Birt-Hogg-Dubé症候群は、肺にできる嚢胞(ブラ)が原因で自然気胸を起こしやすい遺伝性の病気です。本研究では、アジア人患者334名を対象に、自然気胸の起こり方や遺伝子変化について詳しく調べました。自然気胸は男女とも若い年齢で起こりやすく、特に皮膚症状が目立たない患者さんや、喫煙歴のある方でリスクが高いことがわかりました。また、特定の遺伝子領域(FLCN遺伝子の一部)を調べることで、約80%の患者さんで診断が可能でした。

Ochi T, Kurihara M, Tsuboshima K, Nonaka Y, Kumasaka T.
Dynamics of thoracic endometriosis in the pleural cavity.
PLoS One. 2022 May 11;17(5):e0268299. doi: 10.1371/journal.pone.0268299. PMID: 35544515; PMCID: PMC9094567.

解説:いわゆる月経随伴性気胸(胸腔子宮内膜症関連気胸)について、その原因はまだ完全には解明されていません。従来は横隔膜の病変が主な原因と考えられていましたが、160名を対象としたこの研究では、肺の表面や胸壁にも子宮内膜組織が多く見つかることと、肺のどの部分に発生しやすいのかが明確になりました。これにより、病気の仕組みをより深く理解し、今後の治療法の改善につながることが期待できます。

Tsuboshima K, Kurihara M, Seyama K.
Current opinion and comparison of surgical procedures for the treatment of primary spontaneous pneumothorax.
Expert Rev Respir Med. 2022 Feb;16(2):161-171. doi: 10.1080/17476348.2022.2011218. Epub 2021 Dec 6. PMID: 34821193.

解説:若い男性に多い原発性自然気胸の最新の手術方法についてまとめた報告です。

Okamoto S, Ebana H, Kurihara M, Mitani K, Kobayashi E, Hayashi T, Sekimoto Y, Nishino K, Otsuji M, Kumasaka T, Takahashi K, Seyama K.
Folliculin haploinsufficiency causes cellular dysfunction of pleural mesothelial cells.
Sci Rep. 2021 May 24;11(1):10814. doi: 10.1038/s41598-021-90184-9. PMID: 34031471; PMCID: PMC8144428.

解説:Birt-Hogg-Dubé症候群は、肺嚢胞(ブラ)ができ、自然気胸を起こしやすくなる遺伝性の病気です。順天堂大学と行った本研究では、気胸手術時に回収した細胞を使い、肺の表面を覆う細胞(胸膜中皮細胞)の接着力や修復力が低下していることがわかりました。特に、細胞同士をつなぐたんぱく質(E-カドヘリン)やエネルギー調整に関わる働きが弱まっていることが明らかになり、気胸が起こりやすくなる仕組みの一端が解明されました。

Nishino K, Yoshimatsu Y, Muramatsu T, Sekimoto Y, Mitani K, Kobayashi E, Okamoto S, Ebana H, Okada Y, Kurihara M, Suzuki K, Inazawa J, Takahashi K, Watabe T, Seyama K.
Isolation and characterisation of lymphatic endothelial cells from lung tissues affected by lymphangioleiomyomatosis.
Sci Rep. 2021 Apr 16;11(1):8406. doi: 10.1038/s41598-021-88064-3. PMID: 33863980; PMCID: PMC8052438.

解説:リンパ脈管筋腫症(LAM)は、肺に異常な平滑筋様細胞が増える稀な病気で、リンパ管も増えることが知られています。順天堂大学と行ったこの共同研究では、LAM患者さんの肺から採取したリンパ管の細胞が、正常な肺のリンパ管細胞に比べて増殖や移動する力が高まっていることがわかりました。この背景には、細胞表面の特定の受容体(VEGFR-3やインテグリンα9)が関わっていることが示されました。これらの発見は、LAMにおけるリンパ管異常の仕組みを理解し、新たな治療法の開発につながる可能性があります。

Suzuki E, Kurihara M, Tsuboshima K, Watanabe K, Okamoto S, Seyama K.
The effects of total pleural covering on pneumothorax recurrence and pulmonary function in lymphangioleiomyomatosis patients without history of pleurodesis or thoracic surgeries for pneumothorax.
J Thorac Dis. 2021 Jan;13(1):113-124. doi: 10.21037/jtd-20-2286. PMID: 33569191; PMCID: PMC7867849.

解説:リンパ脈管筋腫症によって起こる自然気胸は、肺全体に気胸の原因となる脆弱な嚢胞(ブラ)ができるため、たとえ手術を行っても何度も再発しやすいことで知られています。当院で開発した「全胸膜カバリング術」を受けた41名の調査では、手術後3年経過した時に再発率は約28%と、この疾患としては良好な成績が示されました。また呼吸機能への悪い影響も統計学的には見られませんでした。

Tsuboshima K, Kurihara M, Nonaka Y, Ochi T.
Is conventional management of primary spontaneous pneumothorax appropriate?
Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2021 Apr;69(4):716-721. doi: 10.1007/s11748-020-01535-8. Epub 2020 Nov 12. PMID: 33180257.

解説:原発性自然気胸は、日常診療で一番多くみかける気胸です。伝統的に1回目の発症時は手術以外の負担の少ない方法で治療(保存的治療)し、2回目以降の発症時には手術をご提案することが多いのですが、その科学的根拠は乏しい状況でした。本研究では、166名を対象に保存的治療と手術後の再発率を比較することで、これまでの治療方針の妥当性が統計学的に確認されました。

Hirata T, Koga K, Kai K, Katabuchi H, Kitade M, Kitawaki J, Kurihara M, Takazawa N, Tanaka T, Taniguchi F, Nakajima J, Narahara H, Harada T, Horie S, Honda R, Murono K, Yoshimura K, Osuga Y.
Clinical practice guidelines for the treatment of extragenital endometriosis in Japan, 2018.
J Obstet Gynaecol Res. 2020 Dec;46(12):2474-2487. doi: 10.1111/jog.14522. Epub 2020 Oct 20. PMID: 33078482; PMCID: PMC7756675.

解説:日本エンドメトリオーシス学会が中心となり、2018年に作成した稀少部位子宮内膜症のガイドラインの英訳版です。

Tsuboshima K, Kurihara M, Yamanaka T, Watanabe K, Matoba Y, Seyama K.
Does a gender have something to do with clinical pictures of primary spontaneous pneumothorax?
Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2020 Aug;68(8):741-745. doi: 10.1007/s11748-020-01388-1. Epub 2020 May 27. PMID: 32462402.

解説:原発性自然気胸は患者の大半が男性であり、女性の症例数は少ないため、女性における病態についてはこれまで十分に解明されていませんでした。本研究では、ともに気胸センターを有する当院と高砂市民病院が共同で、厳格な診断基準を満たした患者さんのみを対象に比較検討を行いました。女性106名と男性521例を比較したところ、女性のほうが発症年齢は高く、手術後の再発率が低いことが示されました。

Yamanaka S, Kurihara M, Watanabe K.
A novel dual-covering method in video-assisted thoracic surgery for pediatric primary spontaneous pneumothorax.
Surg Today. 2019 Jul;49(7):587-592. doi: 10.1007/s00595-019-01785-x. Epub 2019 Apr 6. PMID: 30955098.

解説:原発性自然気胸は若い大人に多い病気ですが、子ども(16歳未満)に起こることもあります。子どもの場合も、手術で肺嚢胞(ブラ)を切除して1種類の吸収性シートで補強する処置(シングルカバリング)が行われてきましたが、それだけでは非常に再発が多いことがわかってきました。46名の子どもを対象とした本研究では、手術時に肺を特徴の異なる2種類の吸収性シートで補強した場合には、シングルカバリングに比べて再発が大幅に減少することがわかりました。

前任施設での気胸研究センター長の主な業績

Tsuboshima K, Matoba Y, Wakahara T.
Contralateral bulla neogenesis associated with postoperative recurrences of primary spontaneous pneumothorax in young patients.
J Thorac Dis. 2019 Dec;11(12):5124-5129. doi: 10.21037/jtd.2019.12.05. PMID: 32030229; PMCID: PMC6988004.

解説:原発性自然気胸は若い方に多く、手術後も比較的再発しやすいことが知られています。本研究では、25歳未満の患者さん92名を対象に、手術後の再発に関わる要因を詳しく調べました。その結果、痩せすぎていないことと、手術をしていない側の肺に新たな肺嚢胞(ブラ)ができていない場合には、再発の可能性が低いことがわかりました。これらの結果は、若い患者さんにおける気胸の再発リスクの評価に役立つ可能性があります。

Tsuboshima K, Matoba Y, Wakahara T.
Optimal margin distance of bullectomy for primary spontaneous pneumothorax reduces postoperative recurrence.
J Thorac Dis. 2019 Dec;11(12):5115-5123. doi: 10.21037/jtd.2019.12.06. PMID: 32030228; PMCID: PMC6988031.

解説:原発性自然気胸に対する手術では、原因となる肺嚢胞(ブラ)を自動縫合器で切除する方法が一般的です。本研究では91名の患者さんを対象に、ブラからどのくらい余裕を持って切除すべきかを詳しく調べました。その結果、ブラから5mm以上の十分な距離をとって切除することで、手術後の再発率が大きく減少することが示されました。これは、術後再発を防ぐうえで重要な成果だと考えています。

Tsuboshima K, Matoba Y, Wakahara T, Uchida T, Moriyama S.
The clinical characteristics and surgical results of smoking-related young pneumothorax.
Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2019 Dec;67(12):1070-1074. doi: 10.1007/s11748-019-01146-y. Epub 2019 May 25. PMID: 31129790.

解説:若い方に発症する自然気胸は喫煙が一因と考えられています。一方で喫煙歴がないものの、自然気胸を発症する方も多く存在します。現在の診断基準では、これらはまとめて原発性自然気胸として扱われます。岡山赤十字病院で提唱された「喫煙関連若年者気胸」という考え方に基づき、252名(うち41名が喫煙関連若年者気胸)の原発性自然気胸患者を調査しました。喫煙者のほうが再発が少ないことが示されましたが、これは喫煙することで再発リスクが軽減するという意味ではなく、喫煙歴もなくいわゆる体質のみで発症する方のほうが難治性であるということが示唆しています。将来的には、この2つを異なる病気として区別していく必要があるかもしれません。

Tsuboshima K, Matoba Y, Wakahara T, Maniwa Y.
Natural history of bulla neogenesis for primary spontaneous pneumothorax: a propensity score analysis.
Gen Thorac Cardiovasc Surg. 2019 May;67(5):464-469. doi: 10.1007/s11748-018-1046-3. Epub 2018 Dec 6. PMID: 30523543.

解説:原発性自然気胸は、肺嚢胞(ブラ)が原因で起こりますが、健康な方には通常こうしたブラはありません。本研究では、155名の患者さんの胸部CTを詳しく調べた結果、20歳未満ではブラが新たにできやすく、20歳を過ぎるとほとんど増えなくなることが明らかになりました。この結果から、若い方は手術後もブラが増えやすいため再発しやすく、一定の年齢を過ぎてから手術を行うと再発リスクが下がる可能性が示されました。原発性自然気胸の治療戦略上、重要な知見だと考えています。

Tsuboshima K, Wakahara T, Matoba Y, Maniwa Y.
Pleural Coating by 50% Glucose Solution Reduces Postoperative Recurrence of Spontaneous Pneumothorax.
Ann Thorac Surg. 2018 Jul;106(1):184-191. doi: 10.1016/j.athoracsur.2018.02.040. Epub 2018 Mar 22. PMID: 29577928.

解説:自然気胸の手術では、気胸の原因となる肺嚢胞(ブラ)を切除する方法が一般的ですが、それだけでは再発を完全に防ぐことはできません。従来から、切除部位を補強する目的で吸収性シートの使用が行われてきました。本研究では、376名の患者さんを対象に検討を行い、そのうち106名に対して、手術中に50%の高濃度ブドウ糖溶液をシートの上から滴下する胸膜コーティング法を併用しました。その結果、安全性に問題がないことが確認され、さらに術後の再発率が約1/5に低下することが示されました。

Tsuboshima K, Nagata M, Wakahara T, Matoba Y, Maniwa Y.
Feasibility of single-incision thoracoscopic surgery using a modified chest wall pulley for primary spontaneous pneumothorax: a propensity score matching analysis.
Surg Today. 2017 Sep;47(9):1129-1134. doi: 10.1007/s00595-017-1483-0. Epub 2017 Feb 17. PMID: 28213720.

解説:原発性自然気胸に対する手術では、3つの小さな傷を使った胸腔鏡下手術(3ポート手術)が一般的です。本研究では、1つの小さな傷だけで行う単孔式胸腔鏡下手術に、独自に改良した「胸壁滑車法」を用いることで、手術の操作性を保ちながら安全に行えることが示されました。再発率などの手術成績は、通常の3ポート手術と比べても同等でした。体への負担をより軽くする新しい手術法の選択肢として期待されます。

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