ホーム > 診療科のご案内 > 股関節センター > 診療内容について > 股関節疾患について > 股関節手術について > 人工関節の合併症について
人工股関節の短所として以下に述べるような合併症が見られます。その頻度は、どれもそれほど多くはありませんが様々な問題を含んでいるため、簡単に述べさせていただきます。
■脱臼
脱臼とは、人工関節の継ぎ目の動く部分(骨頭と臼蓋との間;これを摺動面といいます)が、乖離してはずれることで、一般の関節の脱臼と同様のことが人工関節でも起こり得ます。この脱臼は、人工関節の入れ方に問題がある場合、入れる人工関節の種類に問題がある場合、とるべきでない不自然な肢位を患者さんがとってしまった場合などに生じることがありますが、最も多いのは、患者さんが不自然な肢位をとってしまった場合です。
当科で2003年まで行っていた後外側法(従来当科でも行っていた方法:従来法:原因としては、手術した下肢に筋力がなく、筋肉の緊張が少ない人に起こりやすく、術直後に最も多く発生します。さらに、術後は徐々に関節包の再生が生じ、筋力の回復と相まって脱臼の頻度はさらに減少します。しかしながら、頻回に脱臼を繰り返すようになってしまった場合、再手術が必要となります。)でも人工股関節後に脱臼することは非常に稀(0.4%程度)でしたが、これらを更に限りなく起こさせないために、2004年から当科においては現在の方法(筋肉を切離せず、前外方の筋間から進入する術式:MIS-anterolateral法)を導入して以後、脱臼はありません。
■感染
人工股関節で最も困ることは細菌感染です。感染が骨に及ぶと骨髄炎を起こし、場合によっては人工股関節を抜かないと治療ができないことがあります。対策として当科では無菌室という細菌のいない手術室で手術を行っています。
また、人工股関節手術後の感染には、なりやすい人となりにくい人がいます。なりやすい人は糖尿病、慢性関節リウマチなどの病気や、副腎皮質ホルモン剤(ステロイド)を内服している場合などです。
以前股関節の手術を受けたことのある人や、股関節から膿が出ていたことがある人は、細菌が潜んでいる可能性があり、手術が出来るかどうか十分な検査が必要となります。体内に人工関節という異物がはいるため、細菌などがとどまって繁殖しやすくなり、また感染してしまうと治りにくくなります。感染は術後数日という早期に起こる場合もあれば、数年たって起こることもあります。浅いところの感染は通常抗生物質などで治療されますが、深い部位での感染は外科的な治療もしくは人工関節の抜去が必要になることがあります。
■肺梗塞・肺塞栓(エコノミークラス症候群)
婦人科、泌尿器科、股関節、脊椎、膝関節などの手術を行う場合、大腿部の静脈の中で血液が固まり(血栓)、静脈がつまることがあります。足の深いところで起こることを深部静脈血栓症といいます。大腿部でできた大きな血栓が肺に飛んだ場合、肺塞栓・肺梗塞となり、酸素が体に取り込めなくなります。欧米では以前より問題となっていましたが、幸い日本人には少なく、あまり問題にはなっていませんでした。しかし、食生活の変化とともに次第に増加しているようです。これまでの経験によれば、症状を呈する肺梗塞の患者さんは、1%弱いらっしゃいます。当科では、そのほとんどが、術後3週間以内に発症しておりました。しかしながら、これらの患者さんを早期に発見することによって、良好な結果を得ております。
血栓症の既往のある方(脳血栓、肺梗塞)や、血栓が出来やすい体質の方(下肢静脈瘤、心雑音、心弁膜症、不整脈、肥満、糖尿病、高脂血症等)は特に注意が必要で、術前に下肢に血栓の存在が予想される方には、下肢の静脈造影などを行い、必要により下大静脈フィルター(血栓が心臓や肺に飛ばないようにするための装置)を留置した上で、手術を行うこともあります。当然予防が第一です。足首を動かすことで血液はよく流れ、大きな血栓の形成防止が期待できます。
術後は足首をよく動かしてください。当科では強制的に血液を流す機械を術中から手術しない足に着け、術後は両足に着けて予防をしています。また、血栓予防のためのストッキングもあります。残念ながら保険で認められておりませんので、購入して頂ければ術中術後に使用いたします。約3000円(両足)で当院の売店で購入できますので入院時看護婦さんに相談してください。
さらに、当科では、離床時に全例、下肢静脈エコーを施行し、深部静脈血栓がないことを確認してから、リハビリを開始しております。
■ゆるみ
セメント非使用の人工股関節の場合であっても、手術中にしっかり人工関節を固定してあれば、すなわち初期固定がしっかりとしていれば、手術後早期から人工関節がゆるむことはなく、手術当日以降よりの全荷重(手術した足に全体重をのせて歩くこと)が可能です。さらに、ハイドロキシアパタイトによる人工関節のコーティングは骨との癒合を促進することが示されています。しかしながら、人工関節のなかには、設置してから長い年月が経過すると、人工関節が骨に固定されている部分で、骨がもろくなり吸収されることで、人工関節と骨の間にゆるみが出ることがあります。この様な状態を人工関節のゆるみといいます。これは、通常15-20年程度でおこりますが、早い場合数年でおこることもあります。ゆるみがひどい場合には、人工関節の入れ替えの手術をしなければなりません。
従って、定期的な外来観察(最低1年に1度)は必要です。
■摩耗・破損
日常生活のあらゆる場面において、人工股関節は骨頭と人工の軟骨がこすれあって(摺動-しゅうどう-といいます)います。従って、長期間使用していると必ずすりへり(摩耗)が生じます。これまで国内で使用されてきた人工股関節のほとんどポリエチレン(人工の軟骨にあたる)と金属(人工の大腿骨頭にあたる)の組み合わせです。この場合、10年で約1~2mmポリエチレンがすり減り、すり減ったポリエチレンの粉(摩耗粉)を細胞が取り込むと、この影響で骨が溶かされることがあり、通常15から20年も経つと人工股関節の周囲の骨が溶け、人工股関節を支えることが出来なくなる症例が出現してきます。早い場合7,8年でおこることもあります。当科では、この摩耗を起こりにくくするため、セラミックとセラミック、金属と金属の組み合わせか、金属と実験的にはこれまでのポリエチレンに比し非常に摩耗の少ないポリエチレン(架橋ポリエチレン)を組み合わせる人工股関節を使用しております。従って、摩耗粉による問題は起こりにくいと思われますが、まだ、30年以上経過した患者さんがおりませんので残念ながら実証されてはいません。実験上は10年で0.04mm程度以下しか摩耗しないとされています。また、セラミックの組み合わせの場合は割れる危険性があるため、十分に精度の高い手術が要求されます。
長期に人工股関節を使用した場合、金属にひびが入り(金属疲労)、折損・破損することもあります。20年前の人工股関節とは異なり、品質はかなり良くなっていることと100kgを越える体重の患者さんは日本人にはほとんどいませんので、それほどは問題にはならないものと考えられます。
しかしながら、過度の摩耗のため人工関節のゆるみが生じた場合には、人工関節を入れ直すことがあります。
■神経麻痺・血管損傷
足の長さを延ばす場合(脚延長)筋肉、腱はある程度延びますが、神経、血管は延びることができません。従って、無理に延長すると神経麻痺や血管損傷を起こすことがあります。経験的ならびに文献的には2cmまでは問題なく、2.5cm以上の延長で神経麻痺が出現したという報告があります。当科では、2.5cm以上の延長を行う場合、脊髄誘発電位という検査法により、麻酔下でも延長による神経への影響を監視しながら手術を行っております。従って、脚延長による麻痺を回避することができます。しかしながら、通常の人工股関節の場合には、ほとんど問題となることはありません。

